妹尾病院,安佐南区,広島市,下肢静脈瘤

下肢静脈瘤 - 症状と治療

(1)下肢静脈瘤について

下肢静脈瘤とは、ふくらはぎや太もも、膝の裏側、足首のまわりの静脈(青い血管)が太く浮きでて瘤(こぶ)のようになっている状態です。

ずっと立ったり、座ったりしているとだんだん太くなってきます。
逆に横に寝ると目立たなくなります。

程度の差はありますが、成人の3人から5人に1人は足の静脈瘤があると言われています。

 

(2)下肢静脈瘤の原因と種類

静脈は心臓への血液の帰り道です。ところどころに逆流を防ぐための“弁”があります。

この弁がうまく働かなくなることによって静脈瘤ができてきます。

大きく4つのタイプがあります。

(Ⅰ)大伏在静脈瘤

ふくらはぎの内側や太もも、足首の血管がボコボコしてきます。

(Ⅱ)小伏在静脈瘤

主にふくらはぎの後ろ側の静脈が目立ちます。そんなに表面のボコボコが目立たない場合も多くあります。

(Ⅲ)網目状静脈瘤

皮膚表面のチリチリした細い静脈瘤です。

(IV)陰部静脈瘤

太ももの裏側や膝の裏側に青い静脈が目立ちます。

 

(3)どんな人にできやすい

  • まず女性の方に多くできます。これは妊娠、出産が関係あります。妊娠時には赤ちゃんに栄養を送るため体をめぐる血液の量が1.5倍位になります。またお腹の中で静脈が直接圧迫されます。そのため足の静脈が拡張して“弁”が痛んでしまいます。年令とともに徐々に進行して40才代から60才代で症状がでてきます。
  • 次に多いのは「立ち仕事」の方です。1日に何時間も立っての仕事になる板前さん、調理師さん、美容師さん、理容師さん、看護師さん、学校の先生の方などは若いうちから静脈瘤で悩んでおられる方が多くいらっしゃいます。
  • 遺伝的な要因もあります。
     

(4)下肢静脈瘤の症状

「足に血液がたまってしまう」「よどんでしまう」ことでいろいろな症状が起こってきます。症状は少しずつですが悪化していきます。

見た目が気になる

  • ボコボコしていてきれいじゃない
  • 恥ずかしくてスカートがはけない

見た目が悪いと気にするあまり活動性が落ちたり気持ちも消極的になる方もおられます。

足が疲れやすい。重い。だるい。

静脈の弁膜の働きが障害されているため足の筋肉は心臓へ血液を帰すのに一生懸命働かなくてはなりません。立ち仕事はもちろん、座ったままの仕事、車の運転、買い物などでも症状は起こります。進んでくると歩くこと自体がおっくうになり、ショッピングや旅行も楽しめなくなってしまいます。足の静脈瘤で病院を受診される方の80%以上の方が訴えられる症状です。

足がつる、こむら返りが起こる

寝ている間や明け方に足を伸ばした時に足がつってしまいます。特に歩き回って足が疲れたなと感じる翌朝によく起こります。静脈瘤のため血液がよどんで足の筋肉がひどく疲れやすくなっているためだと思われます。こむら返りが静脈瘤と関係があるとはなかなか気づかない方も多いようです。

足がむくむ、腫れる

朝起きた時は、足は普通なのに夕方になるとだんだんむくんできて、くつ下のあとがくっきり残るようになります。ひどくなるといつも腫れた状態になってしまいます。足が鉛のように重くなりだんだんと日頃の生活でも歩くこと自体が難しくなってきます。こうなると老化が進む大きな原因となってしまいます。

足が冷たい、痛い、正座ができない

静脈瘤があまり目立たなくても冷たい、痛いが静脈の弁の逆流のために起こっている方がおられます。超音波検査で初めて静脈瘤が症状の原因とわかる場合もあります。

足がかゆい。皮膚が茶色になってきた。皮膚が硬くなった。

静脈瘤があると足の皮膚の血流が悪くなり炎症が起こります。
お風呂に入って暖まるとひどくかゆくなる場合があります。
炎症が進み皮膚が茶色になり硬くなってくると要注意です。
傷が治りにくくなり皮膚が掘れてしまう(潰瘍形成)と大変です。

 

(5)下肢静脈瘤の診療、検査

足に青い血管が浮いていて「足が重だるい」「むくむ」「こむら返りが起こる」等の症状がある方はぜひ専門医の診療を受けることをお勧めします。

下肢静脈瘤は内科、外科、整形外科などの専門科の“はざま”の疾患です。人間ドック、かかりつけの先生、大病院の外科外来などで「放っておいても命にはかかわらないよ」と冷たく対応されることも多いようです。でも患者さんにとってはつらい症状です。悪化すると歩くのが難しくなるし、皮膚潰瘍をつくることもあります。

診療はまず全身の状態(心臓、肺、血管等)を問診、聴診等で把握します。
もちろん外からみえる下肢静脈瘤の状態を観察し症状も詳しくお聞きします。
「適確な診断」を行い「適切な治療方針」を決めるには「超音波検査」が不可欠です。
痛みや負担は全くなく安全な検査です。この検査で足の静脈の状態がほぼわかります。

 

(6)下肢静脈瘤の治療

治療方法は大きく分けて4つあります。

  1. 血管内治療(レーザー・高周波)
  2. 手術療法(ストリッピング手術・瘤切除術)
  3. 硬化療法(注射療法)
  4. 弾性ストッキング着用

これらの方法を組み合わせて患者さん一人一人の状態に沿って治療していきます。
治療の最大の目的は「下肢静脈瘤による症状を可及的に改善させること」にあります。

血管内治療

この中で血管内治療は患者さんにとって負担のより少ない方法として急速に拡がっています。もちろん当院でもレーザーファイバーによる血管内治療を導入して積極的に行っています。
我が国では2014年から保険診療が認められました。

治療の方法を簡単に説明します。
(図の大伏在静脈という血管を治療する場合)
膝下部に局所麻酔をして直径1.6mmの細いカテーテルを血管の中に入れていきます。
超音波で見ながら足の付け根で深部静脈に合流する約2cm手前までカテーテル先端を進めていきます。
カテーテルの周囲に足の付け根から膝下まで局所麻酔薬を注入します。
カテーテルを引き抜きながらカテーテルの先端からレーザーを血管内に照射し、レーザーの発する熱で静脈の壁を変性させて血液の逆流を止めてしまいます。
膝から下のコブコブがひどい時は静脈瘤切除術を追加します。
手術時間は30分から1時間程度です。
手術による傷も小さく、術中、術後の痛みもほとんどなく優れた治療方法です。
手術後もすぐに歩けます。日帰り治療で可能です。仕事もすぐに復帰できます。

また高齢の方でも大丈夫です。(ただし大伏在静脈がとても太くなっている時、ひどく屈曲している時は難しいこともあります。)

 

■レーザー治療のイメージ図

 

■機械

(7)まとめ

「足が重い、だるい、疲れやすい」「足がつるのが辛い」「足がむくむ、腫れる」「冷たい、痛い、正座ができない」「足がかゆい、皮膚が茶色く硬くなってきた」等の症状がある方はぜひ専門医の診療を受けることをお勧めします。
ご高齢の方も「もう年だから治療しなくていい。」ではありません。70才代は治療の適齢期です。80才代でも問題なしです。
下肢静脈瘤は見た目が悪いというだけでは決してなく、年齢とともに足、体、心の健康を害していく病気です。「適確な診断」のもとに「適切な治療」をすれば症状は高い確率で劇的に改善します。

「ボコボコがなくなりスカートもOK」「足の重だるさやむくみがとれてとっても軽い」「歩くのが楽になってショッピングや旅行もしっかり楽しめる。」「辛かったこむら返りもうそのように起こらなくなった。」「気分も晴れ晴れ。第2の青春!!」「もっと早く治療してもらえばよかった!!」治療の後によく聞く言葉です。

当院でも少しでも患者さんの負担が少なくより治療の効果が上がるよう日々研鑽を積んでおります。

妹尾病院 副院長 心臓血管外科部長
吉富 一郎

  • 岡山大学医学研究科卒
  • 医学博士
  • 日本外科学会専門医
  • 日本循環器学会専門医
  • 日本胸部外科学会認定医
  • 血管内焼灼実施認定医